女性のキャリアと再チャレンジ

K・T(40代)

 46歳子供一人の私は、今、在宅介護支援センターのケアマネージャーとして働いています。ケアマネージャーとしての経験は1年そこそこ、契約職員で年収は300万円未満です。しかし、年収には代えられない経験や勉強がここではできるので、5年間はここで修業を積もうと思っています。
 もともと、私は介護や福祉とは無縁の世界で働いていました。大学も理学部で、化学を専攻していました。学生時代は、研究職につくことを希望していたのだと思いますが、学びを重ねるにつけ、自分の能力の限界を思い知りました。研究所に勤めても下っ端のルーチンワークしか出来ないのではやる気がしないと思い、漠然と企業への就職を希望しました。当時は、男女雇用機会均等法の元年で、企業の方も「とにかく政府の方針通りに女性の雇用数を増やせ」というところで、雇用後の適当な配属先も入社後のキャリアプランもなく雇用数を増やしたところでした。おりしもコンピュータ産業が盛んになってきたところで、理系の女子が就職するのは難しいことではありませんでした。今考えると、そんないい加減な動機で就職していたのかとあきれますが、当時は「女子は結婚までの腰掛」という考えも根強かったころです。就職を今の人ほどきちんと考えていませんでした。
 縁あって電機メーカーのコンピュータ開発部門で働き始めたのですが、あまりにも旧態依然とした職場や、「とりあえず女子を入れました」的な環境になじめず、3年で外資系のコンピュータ会社に転職しました。会社側の多少の勘違いはあったようですが、前職で経験していた仕事がたまたまそのとき会社で求めていた人材に合ったようでした。Corporate Philosophyの違いには驚きました。「コンピュータの仕事」と言っても、給与・待遇・求められる成果・評価・企業形態・働いている人たちのタイプが全然違うものだと身にしみました。今の学生さんはちゃんとそこまで観察、研究、そして大学からも指導を受けているようですが、当時の私はそんなことも知らなかったのです。外資系の会社だったので、英語も必要に迫られて覚えました。今だったら、英語ができない人材は就職は難しいでしょうが、コンピュータ関連の経験があったのと、コンピュータはプログラムを見れば英語圏の人にも通じるので、雇ってもらえたのだと思います。とにかく、そこで実践とNHKラジオ英会話などでTOEIC850くらいまで英語力が伸びました。当時はまだ東西冷戦の時代だったので、制限はありましたが、海外の人と出会うことが出来ました。
 出産後も職場復帰できました。育児時間も取ることができました。しかし、育児休暇がなく産後6週間で職場復帰し、未認可の保育園に子供を預けることはできましたが、育児を頼れる家族がないと、なかなか生活がきつくなってきました。出張や残業のないポジションに就くことは出来ましたが、はっきり言って閑職で、収入があるのはありがたかったのですが、子供を預けてなにをやっているんだろうと疑問が起こってきました。もう少しやりがいのある仕事がしたいと会社に相談もしたのですが、そんな虫のいい話があるはずもなく、考えた結果、会社を辞めることにしました。それがよかったのかどうかは今でも分かりません。そのころの同僚たちは今も社会で活躍しています。
 会社を辞めた後は、自宅で翻訳や書き物のバイトをしながら子供を見守っていました。時間が増えた分、収入は80万円程度に減り、仕事も身分も不安定で、契約が切られたり仕事がなくなる不安を経験しました。今となっては、「仕事がある」ことが喜びで、「自分で仕事をもらいに行く」度胸を身につけたいい経験でした。
 そのころ、近所の障害者や高齢者を支援する有償ボランティアに興味を持って参加するようになりました。報酬は着き2万円くらいでしたが、これが後に訪問介護ヘルパーになるきっかけになりました。介護保険制度が導入されると2級ヘルパーの資格を取り、子供が中学に入ると土日も夜間も訪問介護の仕事をするようになりました。ヘルパーの経験が3年あると介護福祉士の国家試験を受けられるので、そこから介護福祉士になり、訪問介護事業所のサービス提供責任者になりました。さらに、ヘルパー経験が5年以上あるとケアマネージャーの試験が受けられるので、そこからケアマネージャーになりました。
 はっきり言って、サービス提供責任者をしていた事業所は、NPO法人だったせいもありますが、極端に給与が低く、休みも満足にとれませんでした。それでも、忙しいということはそれだけ経験ができると割り切って、それなりに楽しんで働いていました。しかし、その事業所ではケアマネージャーが働く場所がありませんでした。職場の人の薦めもあって転職したのですが、この年で知らない事業所ではじめての経験の仕事をするのですから、それはそれは緊張しました。
 これから就職される女性には、私のような行き当たりばったりの職業経験ではなく、しっかりとどっしりとキャリアを積み上げて素敵な女性になって充実した人生を手に入れてほしいと思います。
でも、もし、なにかでつまずいても、それはなにかの転機かもしれません。少しは落ち込んでも、自信を取り戻して、とりあえずやれるところから動き出してください。動けば何かが身についたり、誰かの目に留まったり、何かを見つけたりして道が開けるかもしれません。