『女性のセカンドチャンス』体験談

田中 君枝(40代)

 私は、現在幼稚園の教師をしている。現場で子どもたちとともに過ごす日々で、(体力の限界を感じながらも)大きな喜びに包まれることが多い。創造力豊かな子どもたちの感性に出会うたびに、この仕事を選んで本当によかったと思っている。
 短大を卒業してからすぐに就職をし、幼稚園の職場についた。当時から数えると20年近く現場で子どもたちとともに過ごしていることになる。教師になったばかりのころは、無我夢中で毎日がわからないまま過ぎていった。学校で学んだことが、教育の理念や、子どもの内面性の理解、遊びの捉え方など保育の根幹を考えることが多かったために、具体的な日々の動きとの結びつきができず混乱していたように思う。同僚と何時間も保育方法について議論し、自分の保育を振り返りながら反省の連続であった。しかし、そのときの思いは今でも変わらない。保育とは本当に奥が深く子どもから学ぶことが多い。だからこそ、毎年が新鮮でいろいろな発見と出会いがあり、保育の魅力から離れられないでいるのかもしれない。内容こそ似ている保育はあるが、同じ保育の経験をした年は未だに一度もない。それだけ一人一人の子どもたちの思いは違い、考え方、感じ方が異なっているのである。それと同時に自分自身についても考えさせられることが何度もあった。子どもは、私たちの背中を見ている。子どもは大人が思うほど子どもではなく、大人は子どもが思うほど大人ではない。
 さて、はじめの職場を退職してから、すぐに子どもができ母親になった。私は、当時のころを振り返ると、本当に幸福な時間が流れていたのだと切に思う。もちろん年子の2人をかかえて大変なこともたくさんあったがわが子を通して楽しませてもらうことがたくさんあった。下の子が幼稚園を卒園するまで専業主婦となり子どもの都合に合わせていく生活をしばらく続けた。しかし子どもたちが幼稚園に通っているときも地域の未就園児のサークルを開いて活動をはじめたこともあった。地域活性化の目的もあったが、自分が保育活動に携わっていることに喜びを感じていたのは確かである。いつかは、また現場に戻りたいと思い、その感覚を磨いておきたいという思いもあった。私はこのように、常に自分にとってそれぞれの時期は、どういう意味をもっているかを考えることが多い。そう考えるとその時期ごとに本当に意味深いことが分かる。たとえば、子育てに専念していた時期は、仕事をしていたわけではないがそこで学ぶべきことがたくさんあった。幼稚園の母としての感じる心を実感したり、子どもを見る親の目の偏りも十分に味わった。今、実際に幼稚園児の母親と接しているときに保護者の立場の気持ちが良く分かる。それは、その立場になってみないと分からないことである。相手の立場になって考えていくことはなかなか簡単にできることではない。同じ方向からばかりの考え方ではお互いの理解にはつながらない。様々な経験をすることによってたくさんの心の財産を得ることになる。そしてそれは必ずその後の人生に豊かなものを与えてくれる。私はそう信じている。
 その後下の子どもが小学校に入ったのをきっかけとして、仕事への本格的復帰を考え始めた。自分の子どもたちが通っていた幼稚園で役員をしていた関係もあり、再就職を希望する気持ちを幼稚園にぶつけてみた。はじめは、非常勤という雇用形態で現場復帰が可能になった。その後、子どもが成長するに従って常勤の勤務体制になり、学級担任及び学年主任を任されるまでに至った。今年度は、子育て支援の担当になり未就園児のクラスを担当している。今、振り返ると、もう一度幼稚園で働きたいという気持ちがとても強くそれが私を後押しして言ったのであろう。「アサーション」という言葉がある。自己表現という意味ではあるが、これがなかなか難しい。一方的、攻撃的な自己表現は人間関係をこじらせてしまう。だからといって気持ちを表さないでいるのは前向きな考え方ではない。調和的な自己表現ができる関係を築くことは、これからの社会の中でとても必要とされるちからではないであろうか。自分の子どもを育てた後職場に復帰し、以前とは全く違う見方で子どもを捉えるようにもなってきた。昨年キャリアを活かして特別支援学校の教諭免許を取得した。様々な子どもたちに対応していくための力をつけることの大切さを感じている。現在こちらの大学の通信教育を受講させていただき小学校教員免許と幼稚園専修免許を取得中である。職場復帰をしたことで、幼児教育から始まる人間の生涯教育としての流れに興味を持つようになったからである。
 人生の中にはタイミングをつかむ瞬間がある。すべてが綿密に計画された中に次へのステップチャンスがあるわけではない。しかし自分の夢や自分の考えは常にもっているべきである。人生には決して意味のない無駄な時期というのはない。その人の捉え方によってどうにでも変わる。「人間万事塞翁が馬」私はこの考え方に共感する。自分が歩んでいるそのときそのときを大切にしていきたい。
 社会の中で生きていくのにもうひとつ大切なことが人間関係である。コミュニケーション能力は幼児教育の中でも今注目していることであるが、人との関係が、人生の分岐点をたくさん作ってくれる。意外なところでつながっていた友だち関係を偶然知ったりすると、私はとてもうれしくなる。たくさんの友人に恵まれそしてお互いに助け合う関係は、社会の基本である。幼稚園の子どもたちに常に話していることは、まず、私たち大人が実践していかなければならないことである。たくさんの友人を作り、様々な考え方を受け入れていく力、それは世界の様々な文化を受け入れていく価値観につながるのではないだろうか。
 学生の皆さんには、是非グローバルな目を養い、視野の広いものの考え方をしてほしいと思う。そして、常に自分の考えを調和的に主張できる人になって欲しいと願う。