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回り道したから今がある~諦めずに挑戦し続ける限り道は開ける~

冨岡 直子(40代)

 居住区に学童保育所がない・・・たったそれだけの理由で一生続けようと考えていた仕事を続けられませんでした。悔しくてやりきれなかった今から14年前を今でも鮮明に覚えています。留学カウンセラーとして勤務して11年、子ども二人を保育園に預けて必死でフルタイムを続けていましたが、居住区に学童保育所がないことで仕事を失うとは正直考えていませんでした。学童保育所のあるところに引っ越そうにも居住していたマンションが売れず、双方共に両親が遠くて祖父母を頼れず、鍵を預けて子どもを託すチャイルドシッターを夫が頑として認めませんでした。それでも長男の小学校入学が刻々と迫り、どうして私が仕事をやめなければいけないのかと答えのない問いを自分自身へ問い続ける日々が続きました。
 結局万策尽きた上に四面楚歌のなかで退職を迎えました。仕事が続けられるようにとわざわざ三歳離して生んだ次男が控えていたのでおそらく5年はフルタイムに復帰することは望めませんでした。元の職場から細々もらっていた在宅の仕事を届けに会社に向かったものの、元の同僚の輝く姿を目の当たりにしては激しく落ち込み、そのうち元の職場へも行けなくなりました。
 絶対にこのままでは終わらない!考えて考えた末にフルタイムの仕事が無理ならば学生になろうと大学院受験に挑戦したのです。何か壮大な想いがあった訳ではなく、フルタイムにつけないだろう空白の時間に今より高い学位を取ればその後の役に立つかもしれない・・・学問の府からすれば甚だ不純な動機でしたがそのときの私には生きていくための計り知れないエネルギーとなったのです。
 自分のお金と時間を使って通う大学院は本当に有意義で楽しく、面白くて最高でした。ところがここでも再度仕事をするにも年齢の壁がありました。異文化コミュニケーションで修士号を取得しましたが就職のめどは立たず、異文化適応の研究をしようと博士課程へ進学をしました。しかし年齢の壁に阻まれて大学内での就職は難しく博士論文にも行き詰まって先が見えずにいたところに元の職場の部下だった女性からメールが届きました。
 「私はMBA(経営学修士)を取得して大学発ベンチャーとして会社を立ち上げました。もし今仕事をしていなければ手伝っていただけませんか?」
 彼女にとって私はその会社で初めてついた上司でした。私にとっては次々と入社してくる新入社員の一人でした。私が思っていたり感じていたりした何倍も彼女は私に感謝をして、私の仕事の仕方を尊敬していたと後から聞いて、このような縁もあるのだとつくづく人生の不思議さを思いました。
 彼女が立ち上げた会社、㈱セルフウイングは起業家教育プログラムを通して小学生から大人までを対象にアントレプレナーシップ(起業家精神)を持ったチャレンジ精神あふれる人材の育成を目指しています。新規事業立ち上げのコンサルテーションや地域産業を担う人材の育成にも力をいれています。最近ではアジアや中近東の若者との起業家教育プログラムのコラボレーションも増えてきていて、接点が薄いと思っていた私自身の専門に重なるところが出てきて大変面白い仕事をさせてもらっています。
 大学を卒業してから今年で25年、留学経験を生かして順調にスタートした社会人生活は自分の意思や力ではどうすることもできない事情によって何度も軌道修正を余儀なくされました。遠く遠く回り道をしながらもがいた日々は、順調にキャリアの階段を上っていたら見えなかったものを見ることができて考えなかっただろうことを深く考えることができた月日でした。
 断腸の思いで泣く泣く仕事をやめたあの日から14年が過ぎようとしています。働く女性をサポートする社会的支援は本当の意味で向上したのでしょうか。制度やハード面が改良されたとしても本当に変えていかなければならないのは人間の心の奥深くにある偏見や思い込みや意味のない沽券や見栄という代物だと私は思っています。
 不思議な縁で結ばれていた後輩から与えてもらったチャンスに心から感謝をしながら私は日々様々な人との出会いを大切にしながら仕事をしています。自分の夢だけではなく沢山の人の夢をかなえるサポートをしながら新しい価値を創る喜びを感じています。
 今暗闇の中で失意を抱えてもがいている女性たちが回り道をしながらも、どうかその悩みや深い慟哭や悔しさを肥やしにして自分の世界を掴み取り、新しい自分の道を切り開くことができるように心から願っているのです。諦めずに挑戦し続けていれば誰かが必ず見てくれていて自分の前に新たな道を創ることがきっと出来ると信じています。
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