私が掴んだ「セカンドチャンス」
吉川 泰子(40代)
できれば仕事は一生続けたいと考え、大学に進学したものの、当時私が専攻したのは心理学でした。まだ日本で専門職としての資格はなく、直接仕事につながる道はありませんでした。ただ卒論の為に通わせて頂いていた保育園の園長「共働きの家庭の子供達はやはり淋しさを抱えています。子どもが幼いほんの一時期、母親と一緒の時間は何にも代え難いものなのです。」との一言は私に大きなインパクトを与えるものでした。実際私自身も園児達との関わりの中で感じた事でもあり、やがて子供を授かる機会があればぜひ自分の手で育てていきたいと考えるきっかけとなったのです。
やがて結婚、出産を経て思い通り子供との時間を充分に満喫しました。けれどどこか頭の片隅では再び社会に出たいと思い続けており、少しづつ情報収集もしていました。
その中で私が着目したのは消費生活アドバイザーという資格でした。資格取得者が週に三日位の勤務で家庭との両立を図っているとの体験談をいくつか目にする事があったのです。それまで育んできたものを一度に手放してしまうには不安もあり、週に半分位で仕事ができるというのは何よりも魅力でした。そして勿論、既に仕事を離れて十年を経過した身に何の武器も無いまま社会が受け入れる由の無い事も充分に分かっていたつもりでした。
こうして勉強を始めたのは三十九才の時でした。丁度下の子は小学一年生になっており、又、やがて夫の地方勤務も任が解けるはずで東京に戻れば就業の可能性も広がると考えました。けれどいざ通信教育の教材が届いてみると、その量と範囲の広さに後ずさりする思いでした。しかも勉強するのは何十年ぶりです。何をどうしていいかも分からず、まずは教材をしっかり読み込む事から手をつけました。
ところが、どんどん勉強を進めていくと好奇心の強さが幸いし、幅広い知識の修得は面白く、不安な気持ちは姿を消し、より貪欲に色々な事を知りたいと思うようになりました。やがて教材の学習を終えても、試験に合わせて図書館に通い関連の事柄を調べ、新聞もより細かく読みました。この様に勉強していく中で消費生活アドバイザーの資格そのものも正に自分にぴったりの資格なのではないかとさえ思える様になり、結果合格を頂けました。
その直後、夫も転勤を終え東京へ戻り、縁あって某メーカーのお客様相談室への就職が決まりました。やはり資格の力は大きいものだと改めて思い知りました。
こうしてお客様対応の仕事をこなしていく日々が始まりました。一生懸命に応対させて頂いてもお客様の怒りが納まらなかったり、所謂クレーマーの様な方からお叱りを受けたりするなど大変なこともありました。しかし、それでも平日取れるお休みで子供の学校行事にも参加でき、家庭と両立もできました。
けれどその一方で仕事に慣れて来ると少し淋しさを感じるようにもなって来ました。メーカーのお客様相談室に求められるのは商品知識であり、資格を取るために学習した内容は日々の業務には全く必要のないものとなっていたのです。丁度就業して二年経った頃でした。勤務条件の変更を迫られてもおり、退職し、より幅広く知識を活用できる行政の窓口に挑戦する事を決めました。関連の資格も新たに取得して、機会をうかがい、晴れて現在の千葉県消費者センターへの入所が決まりました。今年の一月で五年目を迎え、日々研鑽に励む毎日です。
消費者センターでの仕事はやはり考えていた通りたくさんの知識が要求され、時には交渉力や粘り強さも必要です。当然毎日のニュースにも敏感にアンテナを張りめぐらせ、情報も更新していかなければなりません。しかし、私自身はそれを心から楽しいと感じ、何よりご相談者から頂く感謝の言葉は、この仕事を選んだ何よりの喜びであり、誇りです。
子供を産み育てている間には、社会から取り残されてしまったような疎外感を感じた時期もありました。でもその時間は、自分の可能性を探る、次のステップに進む為の準備期間なのだと思う気持ちを忘れなければ、必ずブランクさえ活かせる時はやって来るのだと思います。家庭に入り、苛立ちを感じたまま子育ての時期を不安定に過ごしてしまう事は、とても勿体ない事ではないでしょうか。
アンテナだけは常に高く掲げておけば、「センカンド・チャンス」は必ず掴める信じて、その時々を後悔なく、思う存分に過ごす事こそが、次の自分を見つけ、育てていく事につながるはずです。
一人でも多くの女性が、今の自分を嫌いにならず未来に向かえる様、心からのメッセージを送り、筆を置きたいと思います。