女性のセカンド・チャンス

匿名(40代)

 私は独身時代、フリーランスのライターとして海外取材にも行ったりしていた。それが結婚後すぐに妊娠。フリーランスなので仕事を一時中断する事にしたが、出産後すぐに復帰するつもりでいた。ところが実家の母がうつ病になってしまったのである。妊娠中、大きなおなかで母を連れて心療内科やカウンセラーのもとに通ったが母の状態はよくはならなかった。出産後、孫ができた喜びが大きかったのか母の状態は以前よりはよくなったのだが、まだ完全に治ったというのではなかった。私は育児と母親の面倒、家事が負担となってとても仕事を続けるような状況にはなかった。それでも家で資料を元に執筆できるような仕事を探し、細々ながら書いていた。やがて次女が生まれ長女を幼稚園、または保育園に入れようか悩んだのだが、私が暮らす横浜は保育園に入れるのは非常に困難という事がわかった。可能であっても第4希望の保育園ぐらいしか入れない。そんな状況を知った時、大事な子供を第4希望までに落とすというのは問題外だと思った。そこで、幼稚園に入れたのだが送迎と仕事との両立がとてもハードだった。
  仕事が中途半端になりそうで私自身相当ストレスがたまっていた時、おもいきってカウンセラーになるための学校に通う事にした。母を助けたい一心だったが、今から考えると私自身がカウンセリングを求めていたのかもしれない。最初自分を知るためのトレーニングが行われたのだが、そこで私はいかにカウンセラーに向いていないかという事がよくわかったのである。しかし、何かの役に立つと思いカウンセラーの資格を取得した。やがて長女が卒園という時、卒園式で有志の母親達が集まり劇を演じる事になった。もちろん、私が脚本を書き配役、演技指導まで行った時なんともいえない満足感、喜びを味わった。劇が好評だった事に自信をつけて、その後私達はアマチュアの劇団を立ち上げ、今では子供会、老人会、養護学校、高齢者ケアハウスなどに慰問に行くようにもなった。活動を続けているうち私は、母親達が非常にイキイキして舞台の上ではまるで人が変わってしまう様子に気がついた。そして以前読んだ英文記事を思い出したのである。それは、「ステージセラピー」に関するもので、人は舞台に立つといった緊張感などのプレッシャーにさらされながらも、見られる事の快感、何よりも自信がつく、それが有効なセラピーとなり得るといった内容だった。私はカウンセリングの学校に通い様々な療法について学んでいたのだが、このセラピーはまだ日本ではあまり知られていない。
  子供達が小学校に通うようになり、私は新聞で「舞台マネジメント研修講座」の開催を知り、受講する事になった。その時の講師が、私と同じように未経験のままこの講座を受けて、今では舞台などをプロデュースしたり、小学校に行き「アートセラピー」を実践している事を知った。いつのまにか舞台の袖に立つ事に大きな魅力を感じていた私にとって、この講師の影響は大きかった。なぜなら、自分のように舞台関係の仕事は未経験だと、今さら仕事としてはやれないと頭から思い込んでいたからである。運命とは面白いもので、舞台関係の仕事をしたいと思い始めると、さらに新しい出会いがあるものだ。夫が芸人をしている関係で、クラシックを笑いの世界と融合させようとしているある芸人さんと知り合う事ができた。その人のステージを見てインスピレーションを得たのが、この芸人さんとアマチュアのオーケストラを組ませて、笑いがいっぱいの楽しい音楽鑑賞会を企画し学校に売り込むという事である。マネジメントの講座を受けていたおかげで、企画書を作成、市内で活動しているアマチュアのオーケストラに連絡を取り、ギャラの交渉をした。一方で鑑賞会開催の営業を小学校に向けて始めた。今年の秋にも実現できそうだ。もう一つ、「母親のための母親によるコメディ・ミュージカル」を開催する予定だ。(このようなステージの企画を思いついたのは自分が育児中行かれるようなコンサート、ステージがなかったからです)。これは母親達がクラシック音楽をBGMに、コメディ・ミュージカルを演じそれを母親達に見てもらうというもので、内容は姑や夫、ご近所との人間関係などをユーモラスな劇に仕立てるつもりである。そこで、新たな団員募集を始め、演技やダンス指導のレッスンを行うため元宝塚出身の知り合いに講師の仕事を依頼した。今後、助成金申請から会場探し、チケット営業まで、すべて団員達でマネジメントしていこうと思う。このプロセスこそまさにステージセラピーなのではないかと思う。さらに、もしこのプロジェクトがうまくいったら、私はこの活動を地方にも紹介していきたいと考えている。ステージを通して人と人をつなぐ。それも全く経験のない人達で、新しい世界に飛び込むきっかけを作る。今、私はステージ・コーディネーターとして新しい道を踏み出したところだ。