子育てを通じて“社会”と関わる

定行 加保里(40代)

 女性が、ひとつの仕事を持ち続けるのは、なんて困難なことなのだろう。そして、女性が仕事を持たないことは、なんて不自由なことなのだろう。祖母や母、友人を見て、また自分が人生の半分を過ぎて、そう思い続けている。
 私は1960年生まれ。女性が4年生大学に行くなんて、25歳過ぎて結婚していないなんて・・・と言われる環境に育った。とりあえず大学までは平等に教育を受けたとしても、その後の仕事や人生の選択肢は、男友達と女友達では全く違っている。例外に漏れず私も多くの女友達と同じく、専業主婦になり子育てしたり、夫の転勤に伴った生活スタイルを持ち、プチ仕事を望んだりしてきた。
 小学校に勤め、転勤のある夫と結婚して子どもを持った。知らない土地で専業主婦をしながら子育てするのを、当たり前だと思っていた。ところが、自分の収入を持たず、地域に人的つながりも全く無く、一方的に依存される赤ちゃんとだけの暮らしに、強い閉塞感と社会からの疎外感を持ってしまった。テレビや雑誌に出てくる待望の赤ちゃんを得た幸せなニューファミリー、実際にはそのイメージと正反対の精神状態だったのだ。友人との手紙のやり取りで自分が育児ノイローゼになりかかっていることに気づいた。女性は、出産で自分のこれまでの世界をすべてリセットしてしまうケースが多い。学習や仕事やそれらを通じての人的つながりを失ってしまうことは、実は生きがいの喪失になってしまっていたのだ。子どもはかわいい。けれど、私が社会とつながり続けることと両立させなければ、子どもが自分を社会から遮断してしまう存在に思えてしまう・・・そんな思いに至った。
 自分自身の育児ノイローゼ克服法として、自分の住んでいる地域に初の子育てサークルを作り、まずは家にこもる私と同じような専業主婦育児母とネットワークをもった。そして、社会の風に当たるべく、ほんの少しの仕事を求めて新聞の求人広告を見続けた。一時預かりというシステムもない時代、夫が休みの土曜日、夫が子育て可能な半日、その条件で働ける場所を探した。塾の講師を見つけ、試験を受けて、面接では現場で教えた経験を評価してもらえ、即内定を頂けた。ところが、3日後不採用の通知が来たので電話で問い合わせると、次のようなことであった。乳幼児を持つ女性は必ず仕事に穴をあけるからダメだと、塾長の配偶者がストップをかけたのだ。
 子どもがいて仕事を持つ厳しさを痛感し、それと同時にさらに仕事への憧れが強くなった。その後、双子を妊娠出産し、ますます仕事とは縁遠い状況になったのだが。2人の赤ちゃん育てで、3時間睡眠をとることがままならない生活の中、無性に学びたい気持ちがむくむくと沸いてきて、ベビーが1歳になるころには、その気持ちが抑えきれなくなっていた。仕事はさておき、まず外で何かを学ぼう。そう考え、土曜の午前、大好きだった趣味の音楽ジャンルでの講師養成講座に行ってみた。意外なことに、それが私の仕事始まりとなったのだ。音楽の講師の資格を得たことを知った子育て中のママ仲間から、「教えて」と「仕事の依頼」を受け、まさに土曜の午前、夫たちが子育てを担い、妻たちが学び(ピアノを習いに来る)仕事する(ピアノを教える)のである。夫が出張で子どもをみることができない時は、友人にシッターをお願いして収入の半分を提供する。こんな形での、子どもがいても穴を開けない仕事を作ることができた。

①雇ってもらえないなら自分で仕事を作れば良いのだ。また、「子育て中の女性」という社会の隙間に仕事や学びに対して需要があることを知る。工夫次第でそこを埋めることができると思った。
 サークルで育児中の多くの母親に出会った経験をもとに、行政の子育て支援に関わるようになっていった。市の子育て講座の企画や運営を、仕事として仲間とともに行っている。
②自分にも子どもがいるからこその仕事であるが、子どもが病気になるリスクは皆抱えている。
③そこで、一人分の仕事を2人で担うというような発想でシフトを組んで、すぐ代わりが手配できる体制をとっておく。このことが、こちらの仕事をも責任もって受けることを可能にした。同様の方法で、育児サークルを子育て支援NPOにして、
④スタッフにボランティアではなく、質の高さを目指して「仕事」をしてもらうべく方向が整えられた。
⑤それによって、よりやりがいや達成感を仲間と共有しあえるようになった。
⑥子どもの成長とともに、仕事量を増やし、最近はめいっぱい仕事に時間を費やしている状態である。2種類の仕事が自分の中では安定・定着した感があるが、さらに発展させていければと考えている。そのために、子育て支援をしっかり学び 直し、研究したいのだが。また、春からは専門学校の子育て分野での講師を担当することになった。そこでどんな新しい出会いと体験が待っているか楽しみである。 子どもを持っても仕事ややりたいことが続けられる環境。子どもを持つことで、ファーストチャンスをあきらめたり方向転換したりした女性に、セカンドチャンスが得られる環境。そのような環境を作っていくことが私たちの課題であろう。
 仕事においてセカンドチャンスをつかむことは、女性の選択肢や視野、生きがいを広げてくれるものだと実感している。