私のセカンド・チャンス
M・N(40代)
私は大学卒業後、日立製作所ソフトウェア開発本部に就職し、ソフトウェアの設計を行いました。男女雇用均等法の施行後ということで男子と同条件での入社でした。在職中はソフトウェアの設計という仕事も好きでしたし、一生懸命働きました。1日8時間が基本労働時間でしたが、残業を4時間して1日12時間働くことも多々ありました。昼休みや定時後の休み時間を考えると1日の半分以上会社にいたことになります。土日も休日出勤することもありました。コンピュータのマシンを使用する関係で、夕方から仕事に行き夜中テストをして朝帰宅するという昼夜逆転して勤務したこともあります。ソフトウェアが正しく動作しないときは、その調査が終わるまで深夜遅くまで仕事することもありました。ソフトウェアを作るのがメインの仕事でしたので、出張は多くはありませんでしたが、それでもソフトウェアの拡販に協力するために全国各地に出張に行ったこともありますし、アメリカの会社のソフトウェアを導入する関係でアメリカにも出張に行ったこともあります。
一生懸命働いた甲斐があり、入社4年目でサブリーダーとなり、入社8年目に主任になりました。同期入社の中では一番早く主任になった男性達に半年遅れましたが、それでも早いほうです。女性ではトップクラスでした。同期で一緒に主任に上がった女性は私を含め3人でしたが、そのうちの誰も男性と一緒には上がれなかったことを考えますと、女性はやはり男性よりは出世が遅れてしまうのだと思い失望しました。また、私は入社3年目で結婚しましたが、結婚してからも変わらず残業等のハードスケジュールをこなしてきました。結婚の場合は相手の理解があれば仕事一筋の生活も可能ですが、子供がいたらそうはいきません。30歳を過ぎ、そろそろ子供のことを考えなければいけない時期に来て初めて、この会社では子育てと仕事の両立はできないと悟り、退職することにしました。
会社を退職してしばらくしてから、子宝に恵まれました。妊娠出産を経て、子育てをしながら働ける道を模索しました。最初の子供が3ヶ月になって少しまとめて寝てくれるようになった時、通信教育で翻訳の勉強を始めました。コンピュータ関係の英文を自宅で日本語に翻訳する仕事ができないだろうかと考えたからです。2人目の子供を出産し、子供が2人になってからは忙しくてなかなか勉強の時間が取れなくなりましたが、細々と翻訳の勉強を続けました。翻訳の勉強をしていて気づいたことがあります。コンピュータ関係の内容を考えようとしても頭がなかなか回転しないのです。脳の衰えを感じました。そこで下の子が幼稚園の年少に入園した時に、中学生の数学と理科のドリルを使用し、1年生の時から復習することにしました。毎朝子供が幼稚園に行った後少しずつ進め、半年ほどで3年生まで復習し終わりました。
その年の冬にハローワークへ行って仕事を探しました。翻訳の仕事ができないか何件か当たったのですが、経験の無い私がいきなり在宅での仕事は回してもらえないようなので在宅での仕事は一旦諦めました。子供が小さいうちは週3日位で働きたいと思うと私の経験が役に立つ仕事が無く、貿易会社の事務に応募して働き始めました。
6年ほどのブランクを経ての社会復帰です。6年間でかなり社会は様変わりしていました。少しとまどいましたが、すぐに仕事に慣れることができました。最初は社会復帰できた喜びでいっぱいでしたが、事務の仕事は私が以前やっていた技術系の仕事とは違い、私の興味を引くものではありませんでした。その間子供達を小学校の学童保育や幼稚園の延長保育に預けていましたが、週3日も預けられることに子供達はすごく嫌がりました。夏休み等の休みの時は丸一日預けることになります。夏休みを経て子供達はまいってしまい、特に下の子は毎日しょんぼりしていることが多くなってしまいました。
子供を犠牲にしてまで働き続けるかどうか悩んでいた時に、友人から友人の弟さんが経営している会社で、在宅でホームページを作る人を募集しているという話を聞きました。その弟さんは現役大学院生で、在学中に起業したとのことで、一緒に仕事をしている人は皆大学院生でした。脳の衰えを感じていた私ですので、20代の学生たちの中に混じって仕事ができるかどうか不安でした。ホームページ作成という分野も今まで経験したことがありません。30代後半の私が新しい技術を覚えられるかどうか…不安でいっぱいでしたが、とにかく在宅でできるということが魅力的で応募することにしました。応募してからというもの、昼間は以前の仕事をまだ続けていたので時間が取れないため、毎晩子供が寝てからホームページ作成関係の本を読むことにしました。デザイン関係、ホームページ用コード関係、配色関係等何冊も読みました。その甲斐あり、採用審査に合格して働けることになりました。最初の半年間は週に2日はオフィスへ来て欲しいと言われ、週2日出社、週1日在宅というペースで仕事をしました。オフィスが家から2時間近くかかる距離にあるため出社は容易ではありませんでしたが、頑張りました。
現在、週に1日会社のオフィスに行って仕事をし、週に2日在宅で仕事をしています。週1日だけは子供達に我慢してもらわなければいけませんが、他の日は子供が帰ってくる時に家にいてあげられることができます。この仕事に応募してからというもの、かなり努力して新しい技術の習得に努めました。そのおかげで今ではホームページ作成がかなりできるようになりました。もう40歳近いから新しいことは無理…と諦めていたら今の私は無かったでしょう。今はまだ子供が小さいので週に3日しか仕事をしていませんが、子供達が2人とも小学生になり自立してきたら、仕事を少しずつ増やし最終的にはフルで働きたいと思っています。Webの新しい技術を習得できたことは私の自信に繋がりました。何事もトライして努力すれば年齢に関係なく習得できると実感しました。子育て中でまとまった時間が取れない私の勉強法は、毎日少しずつ進めるということでした。1日に進める量は少しでも毎日続けて積み重なるとかなりの量になります。
女性は出産、子育てのことを考えますと、どうしても社会進出は不利になります。ですが、出産、子育ては不利な面ばかりではありません。出産、子育てという経験は自分を一回りも二回りも成長させてくれます。私は出産前はあれこれ悩むことが多かったのですが、今は精神面で本当に強くなったと思います。悩んでいるヒマがないのです。また、集中力がつきました。子供が寝ている間しか勉強ができないので、その間にこのくらい終わらせようと目標を立てて頑張ってきた結果だと思います。
子供と過ごす時間を大切にしたい、でも社会に出て働きたい…と考える私は、子供が赤ちゃんのうちは専業主婦、小さいうちはパート、ある程度大きくなったらフルというフレキシブルな働き方をしようと考えています。働きに出る当てが全くなかった専業主婦の時期はいろいろと葛藤がありましたが、諦めずに日々努力してきました。今の仕事に就けたのはその結果だと思っています。これからも日々の努力を欠かさず、頑張って子育てと仕事を両立していきたいと思います。