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三十五歳、新米教師の挑戦 桜散り、桜咲く、その日まで

石浜 はや子(50代)

 「勤めてみませんか?」 近所の方のその一言から私の挑戦が始まったように思う。事務員を募集しているのだとの事。私は、さっそく同居している母にその話をし、勤めても良いとの返事をもらった。
 さあ、それから、今まで温めていた夢を実現する為、履歴書を書き、市の教育委員会へ。これが、一つ目(・・・)の(・)チャレンジ(・・・・・)。
 私は当時、九歳になる一人娘を育てているサラリーマンの妻、専業主婦の身、チャンスは今、子どもも大きくなった。小学生のころよりの夢であった教師をめざしたい。
 夢は叶った。平成四年九月一日付、市内にある小学校へ。四年生の担任(身分は公立学校講師)として赴任する事となる。
 (その時、私の年齢は三十五歳、遅いスタートである)
 「さあ、決まったけど、どうしよう。」赴任のあいさつがある。私は元来、気が小さい。算盤の試験では、いつも人に酔い、あと一点を取りこぼし、四度の挑戦にて四級に合格、その代り、三級は、一発合格はしたが、そんなわけで、とても気の小さい自分がいる。
 まあ、それが二つ目(・・・)の(・)チャレンジ(・・・・・)。挨拶を上がらずにきちんとこなす事。
 これがまあ、一旦決めたら、学校に入ったとたん、先生を演じると決めた事で、少しだけドキドキしたが、自分としては、上手く出来た。後は、教室で子ども達への挨拶がある。相手は四年生、生意気盛りの年頃である。一通り挨拶したら、子どもから、質問があった。
 「先生は、今まで何をしていたんですか?」
 そう、子ども達からしたら、大切な事かも。
 「はい。おかあさんを十年ほどやってます。」
 「ああ、そうなんだ、おかあさんか?」
 子ども達からしたら、不安だろうな。
 「そこで皆さんの名前を二日で覚えます。」
 三つ目(・・・)の(・)チャレンジ(・・・・・)である。
 九月は学校行事に運動会がある。暑さが残る中、子ども達と過ごすうちに、勉強への体勢が整って来た。でも、悲しい事に私の経験は中学での教育実習のみ、小学校は、臨時免許での事、教わる方も、教える方も、大変。
 特に音楽は、ピアノがだめ、もっぱら、子ども達のピアノとCDにての楽しい時間。習字は逆に大得意分野、これは自信を持って、特に、研究授業の際には、大きな板書にて、子ども達も
 「先生、ピアノはだめだけど、習字は大まる、花まる」と言ってくれる。理科、これも得意分野、実験はちょっと大変だけれど、アルコールランプの扱い方を子供たちに徹底し、マッチの扱いに慣れさせれば、何より実験が楽しい子ども達、子ども達以上に嬉しいのは私。算数、これも大得意、実は子どもの頃、一番の苦手教科のひとつであったが、教えるという立場になると、どこがわからないのか、子どもの気持ちが、手に取るようにわかる。自分が、昔、わからなかった所が、子ども達がわからない所だから。国語、これも大得意分野、しかし、わからないと言われると、どこがと思ってしまう。そこで音読。これが、実は、私は大好きで、茨城弁の名調子でやると、子ども達が、喜ぶ。CDも聞かせるのが良いのだろうが、ひたすら、私の茨城弁の生の声で、何度も、子ども達にも、何度も音読する事を勧める。読めば話の内容は自然と頭に入る。だから子ども達の成績も、音読することで上がる。社会、新聞作り。これが子ども達を生き生きさせる。子ども達の興味は、つきない、あきずにやれる。発表も工夫し、それぞれの個性ある、新聞の出来あがり。
 子ども達、三十八人、ダイヤの原石のよう。子ども達にも、そう言う。
 「君達は、ダイヤの原石だ。だから磨こう。磨けば光る。」
 『やれば出来る』
 教師になる前、友が皆、教員試験を経て、教師に採用されるのを羨ましく思っていた。自分は駄目だったから。でも、臨時教員ではあったけれど、子ども達と過ごした三年間は、すばらしかった。やれば出来る、磨いて、光りたかったのは、実は、私自身でもあった。
 現在、五十歳。今の私の夢は、幼い頃、いとこの友達がよく泊まりがけで家に遊びに来ていたが、その人が、この家のことを小説に書くと言っていたのだが、大学の教員となり、道なかば、六十四歳で帰らぬ人となってしまった。私は、その人の遺志を継ぎ、私の実家について一冊、本を書こうと思っている。実現には、もう少し、かかりそうであるが。
 『夢を叶える為に』、また故人が愛した田舎のたたずまいを、ぜひ、書いてみたい。
 人生、何度目かの挑戦。「我が家のくらし田舎にあこがれる小生の思い(故人)」かな。
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