『セカンドチャンス』私の場合

茅根 真由美(30代)

 昨年11月、「社会保険労務士」として独立開業しました。まだ顧問先は無く、単発の仕事や行政協力で実務経験を積んでいる最中です。従前の(最初のチャンス?)収入を稼ぎ出すまでに至らないので、本当にセカンドチャンスを掴み成功しているとは言えないのですが、今の私は自分で全てを判断し自分のお金を使い、そして自分で営業をかける。そういった一連のことに緊張感を伴う新鮮さを感じ、充実した日々を送っています。
 私は1991年に大学を卒業し、大手旅行会社に就職しました。配属先は情報システム部。
大学で経営情報を専攻していたこともあり、それなりに楽しく仕事に燃えていた日々でした。職業柄残業や泊まり勤務、力仕事?何でも厭わず挑戦してきたつもりです。その頃はこの会社にずっと勤め続けるものと思い、同期男性社員と肩を並べて頑張ってきました。ところが、入社4年後に社内結婚し3年後に妊娠出産を経験した頃から当然ですががむしゃらな働き方が出来なくなってしまいました。まず妊娠中は混雑した駅の階段や通勤電車が怖いのです。切迫流産を繰り返し恐々と仕事をする日々です。やっと産休に入り育児休暇を取得後、職場に復帰したくても今度は保育園ショック(待機児童問題です)。それでも何とか預けるところを見つけ職場復帰の日が決まったとき、子供の喘息発作が出て入院。当時は仕事大好き人間の私でしたから、次々と降りかかる(大袈裟ですね。)問題に「私は職場に戻ることを阻まれている」とさえ思いました。職場復帰後、生活が少し軌道に乗り元の状態の7割位のペースで仕事をしていました。当然、残業にも出張にも制限が出て担当できる仕事の重要性は下がります。ストレスでした。家でも無い時間をやりくりして仕事をする日々。「可愛くて仕方のない子供を預けてまで仕事しているのだからそれなりの結果、評価を残したい!」そんな思いが強く職場でもとんがっていたと思います。ゆっくり残業して自分のペースで仕事をできる男性社員が羨ましいのです。本当に疲れていました。ただ、「自分が頑張っている」そう思える自己満足は高く仕事を辞める事など一切考えていませんでした。3年後、第2子を妊娠した頃は仕事と育児のペースを掴み少し自信も出てきた頃ですが「二人の子供を同じ保育園に預け今度は退職までしっかり働いていけるぞ。」そんな考えの一方でぎりぎりの時間をやり繰りする綱渡りな日々で「本当に無事子供達が育っていくのだろうか。」「自分の仕事はこんなに可愛く小さな子と離れてまでする価値のある仕事なのだろうか。」と自問自答をするのです。会社にも不満がありました。女性はもともと産む性です。承知で採用、雇用しているのです。どうしてそれを織り込み済みで考えられないのでしょうか。きっともう自分が組織で働くことに限界を感じ始めていたのです。
そんな時、同じ会社の夫の名古屋への転勤。苦しみましたが結局退職し、夫と子供達と共に名古屋へ転居しました。それからも辛かったことを忘れません。転居後の孤独、仕事を失った喪失感。子供達と接する時間は増えましたが心が寂しいのです。組織で働くことに限界を感じていたはずなのに解放感より疎外感なのです。その頃、退職前から育児休暇の取得などを通じで社会保険制度に興味を持ち始めいつか仕事に携われたらとの思いから「社会保険労務士」の資格取得の勉強を通信教育で受講していました。その勉強に没頭しました。1日5時間、朝から晩まで隙間時間を見つけ集中しました。子供を背中におんぶし、上の子を遊ばせながら小さなテキストを持ち歩き勉強を続けました。その年に1回で合格。本当に嬉しくて、ストレスなんか吹っ飛びました。ただ、まだ仕事をする体制にはなっていません。相変わらず名古屋にいましたし子供達にも手がかかります。今は自分に力と自信をつける時期だと割り切り勉強を続けました。行政書士、簿記2級、年金アドバイザー2級と続けて取得し勉強にかけるお金は最低限の費用としました。なんせ無職ですから参考書一つ買うのも大変勇気が要ります。父や母に洋服でも買いなさいともらったお小遣いを欲しかったテキストに使ってしまったこともあります。孤独に勉強していたので合格後はネットで勉強会を見つけ参加し少しの有資格者の気分を味わったりしていました。夫の転勤で3年後に東京に戻りすぐ開業とも思いましたが、名古屋で生まれた第3子がまだ小さかったこともありしばらくは錆びつかぬよう経験を積むつもりでパート探しを始めました。 
結局、在宅勤務と外でのパートの二つを3年間掛け持ちし、昨年11月に念願の独立開業に至りました。子供達は私が勉強や仕事をしたりするのを当たり前のように捉えています。特に小1の娘が結婚か仕事か?みたいな選択を迫られるシーンをテレビで見て「ママみたいに両方やればいいのにねぇ。」なんて言うのを聞いた時は微笑ましく、励まされたような気持ちでとても嬉しく思いました。女性が子育ての楽しみや苦しみ(これなくしては母になれません)をじっくり味わいつつ、仕事をする楽しみをも捨てなくて済む。そんな当たり前のことを実現できる社会になってほしい。社会の意識や整備が間に合わないなら自分でそれをやって欲しい。少し大変だけど勇気をもって挑戦して欲しい。そう願わずにはいられません。
今の私は新たなスタートラインに立っています。これからはまた、今までとは違った働き方が出来るのではと自分に期待しています。